それは2019年の12月、クリスマスも過ぎた年末のことでした。
当時私は北海道札幌市、街の中心部である大通公園まで徒歩10分程度の場所にあるマンションの一室で暮らしていました。英語教育事業に携わっており、2020年の飛躍に向けて計画を考え、更なる発展に向け鼻息を荒くしていました。
そんな年末のある日、マンションで時間を過ごしていると突然チャイムが鳴りました。出てみると隣の物件の所有者の方でした。その用件は「ピアノを練習するから、音が聞こえるかもしれません」という話でした。
私は10代の頃ピアノを弾いていたので部屋に音楽が聞こえることには抵抗はありません。「わかりました」と伝えると物件所有者の方は安心した表情をされました。それからというもの、ピアノを練習する音がしばしば聞こえるようになりました。
そして2020年になり新しい年を迎え、ピアノの音は隣室から聞こえてきます。隣室から響いてくるピアノの音に耳を傾けていたとき、ふと「私ももう一度、ピアノを弾いてみようか」と思い立ったのです。
「思いったら即行動」は私のモットーです。電子ピアノについて商品を検索しメーカーに問い合わせをした上で、気になった楽器を試奏するために札幌駅に隣接するステラプレイスの楽器屋に向かいました。
そして電子ピアノを購入。マンションの部屋に設置してヘッドフォンを使用しながら再び、仕事の合間にピアノを弾く生活が始まりました。それは2020年1月のことでした。
日本と世界、そして私の人生を変えた2020年3月
日々、仕事の合間に椅子に腰掛け電子ピアノの鍵盤を気ままに叩いていると、10代の頃の音楽作りに夢中になっていたことを思い出しました。
15歳の頃、英語の授業でビートルズの”Let It Be”を聴き、それをきっかけに音楽の魅力に取りつかれ、OasisやBlurなど英国ロックのアルバムを繰り返し聴く日々。
そしてコードを使ってがむしゃらにメロディを組み込み曲にする。そんな10代の頃のことを思い出しました。
そんな日々が一週間ほど続いたとき、「また曲を作ってみようか」という考えが何気に頭に浮かんだのです。そして、未だになぜかはわからないのですが、作った音楽の使用権を販売することができるサイトを、偶然知ったのです。
深く考えるよりもまずやってみるのが私の性格です。そこで2020年2月、昔録音した楽曲をアップロードし審査を受けてみることにしました。すると審査に合格し審査の申請ができる楽曲数が増えたので、持っている楽曲のいくつかを更にアップロードしてみました。
そして翌月。登録した楽曲から使用料が発生しました。それはとても小さな金額でしたが、「このような世界があるのだ」ということを知ったことは衝撃でした。それは2020年3月のことでした。
この時期と同時に、日本は、そして世界は、大きく変わりました。
自粛期間中に「これから」のことを考え見つけた答え
2020年3月、日本政府より緊急事態宣言が出され外出自粛の要請が行われました。
それまで私の仕事はクライアントのもとに出向くため、当時住んでいた札幌から東京などに飛行機に乗って頻繁に出張をしていました。ところが外出の自粛をきっかけに仕事はすべてZoomを使ったオンラインに。
未曾有の状況のなか将来への見通しを立てることはできず、ただ当時わかっていたのは「自分の生活は、人生は、これから変わっていくだろう」ということだけでした。
そこで私はその状況にあがくのではなく、起こっていることは起こっていることであり自分ではどうにもならないことであると受け止め、それからのことを考え始めました。
「日々の当たり前は変わっていく。自分の人生は変わっていく。では、変わっていくなかでやっておきたいことは何だろう?今やらなければ後悔することは何だろう?」
このように考えていると、なぜか10代の自分の姿を思い出したのです。
10代の頃私は、自分がどのように生きていけばいいのかわからずにもがいていました。何も信用できず、ただ音楽のなかに自分の心の平和を見出していました。
そして自分も人の心を癒し勇気づける素晴らしい音楽を作りたいと思い、高校生活の傍らローランドのマルチレコーダーを使い自作の楽曲をMDに録音して、東京のレコード会社に送っていました。
そして高校3年の秋、東京の市ヶ谷にあるレコード会社のプロデューサーから電話をもらいました。そしてプロになることを目指し高校卒業後に上京を決意したのです。
結局その夢は上京から1年と6ヶ月であきらめ、音楽を仕事にするという夢はずっと、忘れていました。
外出自粛生活が始まり「これから自分はどう生きるか?後悔しないためには何をするか?」を考えたとき、このときの自分の姿がなぜか浮かんだのです。
「1000作品登録」を目指して
音楽のことが気になりつつもどうすればいいのか迷っていた2020年9月。故郷に帰省したさいに訪れた長野県の善光寺でおみくじを引きました。
善光寺はその8年前、当時勤めていた職場を辞めて人生の転機を迎えていたときに訪れた場所で、そのとき引いたおみくじのメッセージはまさに私の人生のこれからについて書かれていました。
そこで改めておみくじを引いてみたところ「旧用多成破・新更始見財・改求雲外望・枯木遭春開」というメッセージをいただき、心は決まりました。そして2020年10月より、腰を据えて音楽作りを始めることにしました。
目標はライセンス販売サイトで1000作品を登録すること。「音楽を作る」ことを通じて自分にその意欲、意思がほんとうにあるのかを、試したいと考えたのです。そして2023年、1000作品登録を達成することができました。
1000作品を登録してわかったことはシンプルです。音楽を作るということはとても楽しいことであるということ。幸せであるということ。そして、それを聴いてくれる人、動画などに使ってくれる人がいるということです。
1000作品を登録してもなお、私には作りたい音楽がたくさんあります。こうして「夢の果てミュージック」が始まりました。
最後に
普通に考えれば、成功する可能性が極めて低いことに挑戦することは時間のムダかもしれません。夢はあくまで夢であり、「現実の生活」に責任を持つ大人が追いかけるものではないという考え方はそのとおりかもしれません。
その一方、私自身が個人事業として行ってきたビジネスを通じて、そして2020年を契機として時代が大きく変わってしまったことを通じて、「生きる」ということについて考えさせられたのです。
それまで当たり前に描いていた未来は消え去り、「まさか、こんなことが起こるなんて・・・」という状況でさえ起こることを仮定し、自分が今しておきたいことは何なのか、そしてやり残したことは何なのか、ずっと考えていました。
わかっていることは一つです。大切なのは「何を得たか」ではなく「何をしたか」であると。状況はつねに変わっていくでしょう。
そして、現在当たり前のようにそこにあるすべてのものは決して当たり前ではありません。だからこそ今後何が起ころうとも「後悔はしたくない」と強く感じたのです。
幸い現代はDIYという言葉があるように、何か仕事をしながらでも音楽を作って、それをお届けするということが可能になりました。
「夢の果てミュージック」の試みは微力かもしれません。それでもお届けする音楽にはきっと、意味があると信じています。
何らかのきっかけで「夢の果てミュージック」を知ってくださったあなたにはぜひ、このプロジェクトの趣旨にご賛同いただき、ご支援いただけましたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。